フリマアプリのメルカリ社はメルペイをリリースし、令和の時代に突入した2019年のGWに大規模な還元キャンペーンを行いました。各種ペイが躍進する背景には、20%、50%、ときに70%にも及ぶ莫大な還元祭りがあり、ユーザー自身がお得を求めて各種店舗でペイを使うという事情があります。

しかし、2019年6月決算において、メルカリは137億円もの赤字を出してしまいました。*1 その件について、考察していきます。

メルペイとメルカリが目指す世界

メルカリ事業は極めて好調で、大幅に躍進しています。みなさんも、メルカリを使っていたり、ご家族やご友人がメルカリにハマっていたりするのではないでしょうか。もはや国民的アプリであり、中国の方がアリペイやウィーチャットをスマホにインストールするのと同じぐらいの浸透率だと考えられます。

そのアリペイやウィーチャットペイが、信用決済基盤の構築を目指しているのと同様、メルペイも、うまくいけば日本型の信用決済基盤を構築しようと狙っているものと考えられます。なぜなら、従来はクレジットカードなどの信用は、信用情報機関などの権威から与えられるものでしたが、決済アプリの登場で、相互に信頼を与えあう横型の信用に変化があったからです。

従来型の信用から、新しい民主型の信用へ。アリペイやウィーチャットペイは、既存の銀行が支配する世の中で信用を得られなかった人たちにも新たな信用を与えたため、躍進しました。メルカリも同様の基盤を狙っているものと考えられます。メルカリならできるでしょう。

メルペイに立ちはだかる壁

しかし、中国と日本では、いろいろな環境が異なっています。たとえば、中国では偽札が横行しており、人々の現金に対する信用が極めて低いという前提があります。一方で、ブルームバーグが伝えているように、日本(とドイツ)は、現金への信頼が極めて高く、今もなお圧倒的な現金社会であるという点が挙げられます。*2

よって、よほどのインセンティブ(利益と動機)がない限り、日本でキャッシュレスを浸透させるのは困難だったのですが、まずPayPayが20%還元のキャンペーンをうち、大幅に躍進しました。そして後発の各種Payも還元祭りを開催し、令和元年はキャッシュレス元年になったのです。

ただし、インセンティブとして還元だけでは各社体力が持ちません。現に、メルカリは137億もの赤字を出したので、お金を使い果たしかけているのは目に見えています。メルカリはまだアプリの収益が山のように上がってくるので体力があるほうですが、それでも撤収する可能性はあります。

そこへ来て、7Payの大規模事故が発生し、インシデント対応もままならなかったことで、キャッシュレス市場が冷え込みつつあります。未来がどうなるかは本当に読めず、このまま利便性をユーザーが理解して一気にキャッシュレスアプリが当たり前になるか。それとも、日本にはSuicaという磁気型のスマート決済システムがあることを思い出し、皆Suicaに戻るのか、いまが分水嶺です。

ただし、筆者の個人的な考えでは、メルカリはピポッド(事業転換)を頻繁に行います。自転車のメルチャリ撤退のように、ダメと思った事業からはすぐさま撤退する機動力を持っていますので、そんなにダラダラと赤字を垂れ流し続けることはないと思われます。

だからこそ、赤字が多いながらも株価も反応せず上昇が続いているわけで、これはQRコード決済そのものへの期待ではなく、メルカリ社の意思決定力そのものへの期待だと見ることができるでしょう。そのあたりは区別が必要です。

*1 メルカリ、137億円の赤字 19年6月期、「メルペイ」ユーザー獲得でコストがかさむ ねとらぼ
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1907/25/news104.html

*2 仮想通貨ハッキングと日本社会の現金志向 ブルームバーグ
https://www.bloomberg.co.jp/news/videos/2018-02-02/P3I7PO6TTDS001